体幹の筋を動きから理解する|触診のコツと臨床で迷うポイント

臨床早見表

臨床で「体幹の動きに関わる筋は?」と迷ったとき、動きから逆引きできるように整理しました。

単なる起始・停止の暗記ではなく、触診のコツと臨床で迷いやすいポイントをあわせてまとめています。

体幹は姿勢保持・動作の安定性・下肢との協調など多くの役割を担う部位なので、評価やアプローチの引き出しとして活用してください。

体幹の動きを支える筋(全体像)

体幹の筋は大きく前面・後面・側面に分けられます。

  • 前面:腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋
  • 後面:脊柱起立筋群(腸肋筋・最長筋・棘筋)・短背筋群(半棘筋・多裂筋・回旋筋)
  • 側面:腰方形筋

体幹の臨床的に重要な運動方向は屈曲・伸展・側屈・回旋の4つで、脊椎は頸椎・胸椎・腰椎で椎間関節の向きが異なるため、部位ごとに得意な動きが違います(屈伸は腰椎、回旋は胸椎が中心に動きやすい)。

以下、動き別に触診のコツとあわせて解説します。

【運動方向別】筋の働きと触診のポイント

屈曲

関与する筋:腹直筋/外腹斜筋・内腹斜筋(補助)

動きのイメージ:体を前に丸める動き(シットアップの動作)。

触診のコツ:腹直筋は腹部正中に縦に走る表層の筋で、いわゆる「6パック」として最も触知しやすい部位。仰向けで軽く頭と肩を持ち上げる動作でしっかり収縮を確認できる。外腹斜筋・内腹斜筋は体幹側面から前面にかけて触れられ、屈曲動作の補助として働く。

臨床で迷うポイント:腹直筋の筋力を評価する際、股関節屈筋(腸腰筋など)が代償して働くと腰椎前弯が強まった状態で動作が起こりやすい。骨盤後傾を保ったまま屈曲できているかを確認すると、純粋な腹直筋の働きを評価しやすい。

伸展

関与する筋:脊柱起立筋群(腸肋筋・最長筋・棘筋)/短背筋群(半棘筋・多裂筋・回旋筋)

動きのイメージ:体を後ろに反らす動き。

触診のコツ:脊柱起立筋群は脊柱の両側に縦走する太い筋で、うつ伏せで上体を起こす動作をすると背中の両サイドにはっきりと盛り上がる。短背筋群(多裂筋など)は脊柱起立筋群の深層にあり単独での触診分離は難しいが、脊柱の分節ごとの安定性に関わる重要な筋群とされる。

臨床で迷うポイント:表層の脊柱起立筋群が過剰に働いて代償している場合、深層の多裂筋がうまく働けていない(分節的な安定性が乏しい)ケースがある。腰痛のある方では、大きな伸展動作だけでなく、姿勢保持時の軽い活動(ドローインなど)の中で多裂筋が働いているかという視点も重要になる。

側屈

関与する筋:腰方形筋/外腹斜筋・内腹斜筋・脊柱起立筋群(同側で協調)

動きのイメージ:体を横に倒す動き。

触診のコツ:腰方形筋は第12肋骨と腸骨稜の間、体幹外側の深層にあり直接の分離触診はやや難しいが、体幹を横に倒す動作で外側腹部から背部にかけての緊張として感じ取れる。外腹斜筋・内腹斜筋・脊柱起立筋群は、倒す側と同じ側が同時に収縮する。

臨床で迷うポイント:腰方形筋は側屈だけでなく、片側で骨盤を引き上げる(歩行時に反対側の脚を振り出しやすくする)役割も持つ。歩行時の骨盤の上下動に左右差がある場合、この筋の機能を疑う視点が役立つ。

回旋

関与する筋:外腹斜筋(反対側回旋)/内腹斜筋(同側回旋)/脊柱起立筋群(同側回旋)/短背筋群(同側〜反対側回旋、部位により異なる)

動きのイメージ:体をひねる動き。

触診のコツ:外腹斜筋と反対側の内腹斜筋は、線維の走行がつながるようにペアで働く(例:右に体をひねるとき、左の外腹斜筋と右の内腹斜筋が同時に働く)。回旋動作でどちらの腹斜筋群が緊張するかを、体幹をひねりながら左右で触り比べると分かりやすい。

臨床で迷うポイント:「同側回旋に働く筋」と「反対側回旋に働く筋」が混同されやすいポイント。内腹斜筋は同側回旋、外腹斜筋は反対側回旋に働くという対の関係を意識すると、評価やトレーニング指導での混乱を避けやすい。

臨床での活用|担当ケースから

腹筋群の弱化による腰痛のケース

デスクワーク中心の方で、長時間の座位による腰痛を訴えていたケースがあります。

評価すると、立位では骨盤前傾が強く腰椎前弯が増大し、座位では骨盤が後傾して腰椎が丸まるというように、姿勢が大きく変化していました。

腹直筋や内腹斜筋の筋力低下により、骨盤の位置を適切に保持できず、姿勢の切り替え時に負担が集中していたことが原因と考えられました。

腹筋群の促通と股関節伸展方向の可動域改善を組み合わせたところ、骨盤の位置が安定し、長時間の座位でも腰痛が軽減しました。

脊柱起立筋群の弱化による円背姿勢のケース

高齢の方で、歩行時に背中が丸くなる円背姿勢を呈していたケースもあります。

胸椎伸展方向の可動域制限と脊柱起立筋群の筋力低下により、立位保持の際に体幹を支えきれず、重心が前方へ移動していました。

脊柱起立筋群の軽負荷トレーニングと胸椎伸展方向のモビライゼーションを行うことで、立位姿勢が改善し、歩行時の前傾も軽減しました。

体幹は腹筋群・脊柱起立筋群・短背筋群・腰方形筋など多くの筋が協調して働くため、どこか一つの筋が弱化しても姿勢や動作に大きな影響が出ます。

局所だけでなく、骨盤や下肢との連動性を含めて評価することが重要だと感じた症例でした。

早見表(起始・停止・神経支配・作用)

現場でサッと確認したいときのために、参考として一覧をまとめておきます(詳細な触診・臨床のポイントは上記を参照してください)。※青色は補助的に働く

脊柱起立筋群

腸肋筋

起始腰腸肋筋-腸骨稜
胸腸肋筋-下部6肋骨
     の肋骨角の
     内側面
頸腸肋筋-上部・中部
     肋骨
停止腰腸肋筋-第5-12肋骨
     角
胸腸肋筋-上部6肋骨
     角
頸腸肋筋-中部頸椎の
     横突起
神経脊髄神経後枝
作用腰腸肋筋-下部脊椎の
     後屈・側屈
胸腸肋筋-胸部の
     後屈・側屈
頸腸肋筋-頸部の
     後屈・側屈

最長筋

起始胸最長筋-腸骨稜,
     第1腰椎-
     第4仙椎
     棘突起,
     第1-2腰椎
     乳様突起,
     第7-12胸椎
     横突起
頸最長筋-第1-6胸椎
     横突起
頭最長筋-第1-3胸椎,
     第3-7頸椎
     横突起
停止胸最長筋-腰椎肋骨突
     起・副突起,
     下部11肋骨
     角,
     第1-12胸椎
     横突起
頸最長筋-第2-7頸椎
     横突起
頭最長筋-乳様突起
神経脊髄神経後枝
作用胸最長筋-脊柱側屈・
     後屈
頸最長筋-頸部後屈・
     側屈
頭最長筋-頭部側屈・
     後屈

棘筋

起始胸棘筋-第2-1腰椎・
    第12-11胸椎
    棘突起
頸棘筋-第6-7頸椎・
    第1-2胸椎
    棘突起
停止胸棘筋-第9-2胸椎
    棘突起
頸棘筋-第4-2頸椎
    棘突起
神経脊髄神経後枝
作用胸棘筋-脊柱後屈
頸棘筋-頸部後屈

短背筋群

半棘筋

起始胸半棘筋-第12-6胸椎
     横突起
頸半棘筋-第6-1胸椎
     横突起
頭半棘筋-第6-1胸椎・
     第7-4頸椎
     横突起
停止胸半棘筋-第6-1胸椎・
     第7-6頸椎
     棘突起
頸半棘筋-第5-2頸椎
     棘突起
頭半棘筋-上・下項線
     間後頭骨部
神経脊髄神経後枝
作用胸半棘筋-脊柱後屈
頸半棘筋-頭部後屈
頭半棘筋-頭部後屈・
     回旋

多裂筋

起始仙骨,仙腸靱帯,
腰椎乳頭突起,
胸椎横突起,
頸椎関節突起
停止第5腰椎-第2頸椎
の隣接する(2-4椎体
をとびこえる)椎体の
横突起
神経脊髄神経後枝
作用脊柱後屈・回旋

回旋筋

起始頸回旋筋-頸椎下関節
     突起
胸回旋筋-胸椎横突起
腰回旋筋-腰椎横突起
停止頸回旋筋-隣接する椎
     骨の椎弓・
     棘突起根部
胸回旋筋-隣接する椎
     骨の棘突起
     根部
腰回旋筋-隣接する椎
     体の棘突起
     根部
神経脊髄神経後枝
作用頸回旋筋-頸部反対側
     回旋
胸回旋筋-胸椎部反対
     側回旋
腰回旋筋-腰椎部反対
     側回旋

腹直筋

起始恥骨,恥骨結合
停止第5-7肋軟骨,
剣状突起
神経肋間神経T7-12
作用体幹前屈,側屈

外腹斜筋

起始第5-12肋骨
停止腹直筋鞘と白線,
腸骨稜
神経肋間神経T5-12
作用体幹回旋,側屈

内腹斜筋

起始胸腰筋膜,腸骨稜,
鼠経靱帯
停止第10-12肋骨,
腹直筋鞘と白線
神経肋間神経T8-12
腸骨鼠経神経
腸骨下腹神経
作用体幹前屈,回旋

腰方形筋

起始腸骨稜,胸腰筋膜
停止第12肋骨,腰椎横突起
神経腰神経叢T12-L3
作用両側-第12肋骨
   引き下げ
片側-同側側屈

まとめ

筋の走行や作用を正しく把握することは、評価・治療・運動指導の精度を高めるうえで不可欠です。

体幹の臨床的に重要な運動方向は、屈曲・伸展・側屈・回旋の4つです。

脊椎は頸椎・胸椎・腰椎で構造が異なり、椎間関節の向きによって運動の許容範囲も変わります。

屈伸は主に腰椎が大きく動き、回旋は胸椎が主に関与し、腰椎の回旋は制限が強く損傷リスクが高いという特徴があります。

また、胸腰椎部の筋は、後面(脊柱起立筋群・短背筋群)、側面(腰方形筋・腸腰筋)、前面(腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)に大きく分けられ、それぞれが姿勢保持や動作の安定性に関わっています。

本記事が、体幹の評価や治療方針を考える際の“機能解剖に立ち返るための確認ツール”として役立てば嬉しいです。

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状に不安がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

・中村隆一・齋藤宏・長崎浩 (2009) 『基礎運動学 第6版』 医歯薬出版株式会社
・青木隆明監修・林典雄 (2010) 『運動療法のための機能解剖学的触診技術-下肢・体幹 第1版』株式会社メジカルビュー社

理学パパ

パパ歴(8年目)

保有資格
・理学療法士(14年目)
・登録理学療法士
・呼吸認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・福祉住環境コーディネーター2級
・ICLS

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