肩甲骨の筋を動きから理解する|触診のコツと臨床で迷うポイント

臨床早見表

臨床で「肩甲骨の動きに関わる筋は?」と迷ったとき、動きから逆引きできるように整理しました。

単なる起始・停止の暗記ではなく、触診のコツと臨床で迷いやすいポイントをあわせてまとめています。

評価やアプローチの引き出しとして活用してください。

肩甲骨の動きを支える6つの筋(全体像)

肩甲骨は胸鎖関節を介してのみ体幹とつながっており、骨性の安定性が乏しい分、周囲筋の協調性で位置と動きが決まる関節です。

関わる筋は主に6つです。

  • 僧帽筋(上部・中部・下部)
  • 肩甲挙筋
  • 大菱形筋・小菱形筋
  • 前鋸筋
  • 小胸筋
  • 鎖骨下筋

それぞれが単独で働くのではなく、挙上と下制、外転と内転、上方回旋と下方回旋というペアで拮抗しながら肩甲骨の位置を決めています。

以下、動き別に触診のコツとあわせて解説します。

【運動方向別】筋の働きと触診のポイント

挙上

関与する筋:僧帽筋上部/肩甲挙筋/大菱形筋・小菱形筋(補助)

動きのイメージ:肩をすくめる動作。僧帽筋上部は後頸部から肩峰へ斜めに、肩甲挙筋はその深層を頸椎から肩甲骨上角へ縦に走ります。

触診のコツ

  • 僧帽筋上部:後頸部から肩峰にかけて斜めに触知できる。肩をすくめながら頭部を同側に回旋させると収縮が分かりやすい。
  • 肩甲挙筋:僧帽筋上部の深層、頸部外側。肩すくめ+頭部同側回旋・後屈の複合動作で収縮を確認しやすい。単独分離が難しい筋なので、僧帽筋上部を脱力させた状態で触れるのがコツ。

臨床で迷うポイント:肩こりの訴えで僧帽筋上部の過緊張が目立つケースでは、肩甲挙筋の短縮が隠れていることが多い。頸部側屈可動域も合わせて確認すると鑑別しやすい。

下制

関与する筋:僧帽筋下部/小胸筋/鎖骨下筋(補助)

動きのイメージ:肩をまっすぐ下に落とす動作。僧帽筋下部は下位胸椎から肩甲棘へ斜め下方に走る。

触診のコツ

  • 僧帽筋下部:肩甲骨内側の下方、脊柱との間。バンザイ姿勢から斜め下方に腕を引き下げる動作(Y字を描くように)で収縮を確認しやすい。
  • 小胸筋:大胸筋の深層、烏口突起の直下。大胸筋を脱力させた状態で指を胸郭に沿って滑り込ませると触れやすい。
  • 鎖骨下筋:鎖骨直下の深部にあり、体表から直接触診するのは難しい筋。存在の理解にとどめておいてよい。

臨床で迷うポイント:小胸筋は「下制」だけでなく短縮すると肩甲骨を下制・外転位に引き込み、僧帽筋上部や肩甲挙筋の収縮を阻害する。肩の挙上制限を診るときに見落とされやすい筋。

外転

関与する筋:前鋸筋/小胸筋(補助)

動きのイメージ:肩甲骨を脊柱から遠ざける動き。パンチを打つときのイメージ。

触診のコツ:前鋸筋は腋窩下から側胸部、第1〜9肋骨表面を覆うように走る。腕を前方に押し出す動作(壁を押すようなイメージ)で収縮を確認しやすい。翼状肩甲がみられる場合、まずこの筋の機能低下を疑う。

臨床で迷うポイント:前鋸筋の筋力低下は、僧帽筋上部の過緊張で代償されやすく、肩をすくめるような挙上動作になりやすい。純粋な外転動作を分離して評価することが重要。

内転

関与する筋:僧帽筋中部/大菱形筋・小菱形筋

動きのイメージ:肩甲骨を脊柱に引き寄せる動き。胸を張るイメージ。

触診のコツ

  • 僧帽筋中部:肩甲棘と脊柱の間を水平に走る線維。腕を横に持ち上げた状態で肩甲骨を内転させると収縮が分かりやすい。
  • 菱形筋(大・小):僧帽筋中部の深層、肩甲骨内側縁と脊柱の間。腰に手を当てて肘を後方へ引く動作(軽度下方回旋を伴う内転)で収縮を確認しやすい。

臨床で迷うポイント:僧帽筋中部と菱形筋は触診上重なりやすい。下方回旋の要素があるかどうか(菱形筋の特徴)で分離を意識すると判断しやすい。

上方回旋

関与する筋:僧帽筋上部・下部/前鋸筋

動きのイメージ:肩甲骨の下角が外側へ回るように動く。バンザイ動作の後半に必要な動き。

触診のコツ:僧帽筋上部・下部と前鋸筋が同時に働くことで肩甲上腕リズムが成立する。挙上動作中に肩甲骨下角の動きを手で追いながら触知すると、どのタイミングで回旋が入っているか確認しやすい。

臨床で迷うポイント:上方回旋不全は、僧帽筋下部または前鋸筋のどちらの機能低下が主因か判断が分かれやすい。挙上90度以降の可動域制限であれば僧帽筋下部、初期からの制限であれば前鋸筋を疑うことが多い。

下方回旋

関与する筋:小胸筋/大菱形筋・小菱形筋/肩甲挙筋

動きのイメージ:肩甲骨の下角が内側へ戻る動き。腕を下ろすときの動き。

触診のコツ:安静時に肩甲骨が過度に下方回旋位(下角が内側に寄っている)にある場合、菱形筋や小胸筋の短縮を疑い、上記の触診ポイントで確認する。

臨床で迷うポイント:下方回旋自体は重力で受動的に起こることも多く、筋の関与を見誤りやすい。安静時アライメントと自動運動時の動きを分けて評価するのがポイント。

臨床での活用|担当ケースから

肩甲骨の挙上がうまくできず、肩の可動域制限と肩こりを訴える方を担当したことがあります。

一見すると僧帽筋上部の筋力低下が原因のように見えましたが、評価を進めると小胸筋の短縮によって肩甲骨が下制・外転位に固定されていることが分かりました。

肩甲骨が下制・外転位にあると、僧帽筋上部や肩甲挙筋が本来の長さで働けず、挙上方向への滑走が阻害されます。

その結果、肩甲上腕リズムが乱れ、肩関節の挙上時に代償的な筋活動が増え、肩こりや挙上制限につながります。

実際にこの方も、肩甲骨の下制・外転が強く、僧帽筋上部の収縮が入りにくい状態でした。

そこで、小胸筋のストレッチと肩甲骨の内転・挙上方向へのモビライゼーションを行い、肩甲骨の静的アライメントを整えたうえで僧帽筋上部の促通を行ったところ、肩の軽さと挙上のしやすさが明らかに改善しました。

肩甲骨の動きは肩関節の可動性や筋活動パターンに大きく影響するため、局所の筋力だけでなく、肩甲骨の位置・可動性・協調性を評価することが重要だと感じた症例でした。

早見表(起始・停止・神経・作用)

現場でサッと確認したいときのために、参考として一覧をまとめておきます(詳細な触診・臨床のポイントは上記を参照してください)。※青色は補助的に働く

僧帽筋

起始上部-外後頭隆起,
   項靱帯
中部-第7頸椎から
   第1-3胸椎
   棘突起
下部-第4-12胸椎
   棘突起
停止上部-鎖骨外側
中部-肩峰,肩甲棘
下部-肩甲棘
神経副神経,頸神経
C2-4
作用上部-肩甲骨挙上,
   上方回旋,
   内転
中部-肩甲骨内転
下部-肩甲骨下制,
   上方回旋,
   内転

肩甲挙筋

起始第1-4頸椎
横突起結節
停止肩甲骨上角,
内側縁
神経肩甲背神経,
頸神経C2-5
作用肩甲骨挙上,
下方回旋

大菱形筋

起始第1-4胸椎棘突起
停止肩甲骨内側縁
神経肩甲背神経
C(4),5,(6)
作用肩甲骨挙上,内転,
下方回旋

小菱形筋

起始第6-7頸椎棘突起
項靱帯下部
停止肩甲骨内側縁
神経肩甲背神経
C(4),5,(6)
作用肩甲骨挙上,内転,
下方回旋

前鋸筋

起始第1-9肋骨
停止肩甲骨内側縁
神経長胸神経C5-7
作用肩甲骨外転,
上方回旋

小胸筋

起始第3-5肋骨
停止肩甲骨烏口突起
神経内側・外側胸筋神経
C7-T1
作用肩甲骨下制,外転,
下方回旋

鎖骨下筋

起始第1肋骨とその軟骨部
停止鎖骨の下面
神経鎖骨下筋神経C5-6
作用肩甲骨下制

まとめ

肩甲骨の動きは一見シンプルに見えますが、実際には胸鎖関節・肩鎖関節・肩甲胸郭関節が連動して働く複雑なシステムで成り立っています。

肩甲骨は体幹と直接つながる関節が胸鎖関節のみであるため、その安定性は靱帯や筋の協調性に大きく依存しています。

この協調性が崩れると、肩甲上腕リズムが乱れ、肩関節の可動性にも影響が及びます。

特に小胸筋の短縮や僧帽筋・前鋸筋の機能低下は、肩甲骨の下制・外転・上方回旋不全といった代償パターンを引き起こしやすく、肩こりや挙上制限、肩峰下インピンジメントのリスクを高めることが少なくありません。

筋の走行・作用・支配神経を理解しておくことは、こうした代償パターンを見抜き、適切な介入ポイントを判断するための重要な基盤になります。

この記事が、肩甲骨の可動性・安定性・協調性を評価する際の“機能解剖に立ち返るための確認ツール”として役立てば嬉しいです。

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。
症状に不安がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

・中村隆一・齋藤宏・長崎浩 (2009) 『基礎運動学 第6版』 医歯薬出版株式会社
・青木隆明監修・林典雄 (2010) 『運動療法のための機能解剖学的触診技術-上肢 第1版』株式会社メジカルビュー社

理学パパ

パパ歴(8年目)

保有資格
・理学療法士(14年目)
・登録理学療法士
・呼吸認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・福祉住環境コーディネーター2級
・ICLS

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