臨床で「股関節の動きに関わる筋は?」と迷ったとき、動きから逆引きできるように整理しました。
単なる起始・停止の暗記ではなく、触診のコツと臨床で迷いやすいポイントをあわせてまとめています。
股関節は可動性と体重支持という2つの役割を担う関節なので、評価やアプローチの引き出しとして活用してください。
股関節の動きを支える筋(全体像)
股関節は臼状関節で、可動性と安定性を高いレベルで両立させる構造を持っています。
関わる主な筋群は以下の通りです。
- 腸腰筋
- 大殿筋・中殿筋・小殿筋
- 大腿筋膜張筋・縫工筋
- ハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)
- 内転筋群(恥骨筋・薄筋・長内転筋・短内転筋・大内転筋)
- 深層外旋6筋
股関節は体重支持という役割も担うため、局所の筋力だけでなく骨盤の位置・体幹の安定性との連動を意識することが臨床では重要です。
以下、動き別に触診のコツとあわせて解説します。
【運動方向別】筋の働きと触診のポイント
屈曲
関与する筋:腸腰筋/大腿直筋/大腿筋膜張筋/縫工筋/恥骨筋(補助)
動きのイメージ:膝を胸に近づける、あるいは脚を前方に振り出す動き。
触診のコツ
- 腸腰筋:体表からの直接触診はほぼ不可能な深層筋。臨床ではThomasテストのような短縮評価で機能を推測することが多い。
- 大腿直筋:上前腸骨棘のやや下方、大腿前面中央で触知できる。膝を伸ばしたまま股関節を屈曲させるキック動作で収縮を確認しやすい。
- 大腿筋膜張筋:上前腸骨棘のすぐ外側下方。股関節を屈曲・外転・内旋させる複合動作で収縮が分かりやすい。
- 縫工筋:上前腸骨棘から大腿前面を斜めに走る細長い筋。あぐらをかくときの動き(屈曲・外転・外旋)で触知しやすい。
臨床で迷うポイント:腸腰筋は直接触診できないため、短縮の有無はThomasテストなどの機能的なテストで判断するのが実用的。単純な屈曲筋力テストだけでは、大腿直筋や大腿筋膜張筋が代償している可能性を見落としやすい。
伸展
関与する筋:大殿筋/大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋(ハムストリングス)
動きのイメージ:脚を後方に振る、あるいは前傾姿勢から立ち上がる動き。
触診のコツ
- 大殿筋:殿部全体で触知できる表層の筋。屈曲位からの伸展(階段を上る、立ち上がる動作)で強く収縮する。
- ハムストリングス:坐骨結節から大腿後面にかけて触知できる。うつ伏せで膝を軽く曲げた状態から股関節を伸展させると収縮を確認しやすい。
臨床で迷うポイント:伸展動作は大殿筋とハムストリングスのどちらが主動作筋になっているか判断が分かれやすい。股関節屈曲位からの伸展初期は大殿筋が優位、伸展後半はハムストリングスの関与が増える傾向があるため、可動域のどの局面かを意識して評価する。
外転
関与する筋:中殿筋/小殿筋(深層)/大腿筋膜張筋(補助)
動きのイメージ:脚を横に持ち上げる動き。
触診のコツ:中殿筋は大転子の上方、腸骨稜のすぐ下で触知できる。側臥位で脚を横に持ち上げる動作が最も分かりやすい。小殿筋は中殿筋の深層にあり単独触診は難しい。
臨床で迷うポイント:中殿筋の筋力低下は歩行時のトレンデレンブルグ徴候として表面化しやすい。単純な徒手筋力検査だけでなく、歩行時の骨盤側方動揺も合わせて観察すると評価の精度が上がる。
内転
関与する筋:恥骨筋/薄筋/長内転筋/短内転筋/大内転筋
動きのイメージ:開いた脚を体の中心に戻す動き。
触診のコツ:長内転筋は鼠径部から大腿内側にかけて走る索状の筋で、内転筋群の中では最も表層にあり触知しやすい。内転させながら鼠径部の内側を触れると、緊張した索状の構造として分かりやすい。大内転筋は長内転筋の後方・深層、坐骨結節寄りに触れる。
臨床で迷うポイント:内転筋群はスポーツ現場での肉離れ(鼠径部痛症候群)が多い部位。長内転筋の付着部(恥骨)に圧痛がないかを合わせて確認すると、筋力評価だけでは見えないリスクを把握しやすい。
外旋
関与する筋:深層外旋6筋(梨状筋など)/大殿筋/腸腰筋(補助)
動きのイメージ:つま先を外側に向ける動き。あぐら座りの動作にも関与する。
触診のコツ:梨状筋は殿部中央、大転子と仙骨を結ぶ線上で触知できる。深層外旋6筋は個別の分離触診が難しいため、股関節屈曲90度位での外旋筋力テストで機能をまとめて評価することが多い。
臨床で迷うポイント:梨状筋の過緊張は坐骨神経の走行と近接するため、殿部から下肢にかけての放散症状(梨状筋症候群)と関連づけて評価されることがある。単なる筋力低下だけでなく、過緊張・短縮の可能性も念頭に置くとよい。
内旋
関与する筋:小殿筋(前部)/中殿筋(前部線維)/大腿筋膜張筋(補助)
動きのイメージ:つま先を内側に向ける動き。
触診のコツ:内旋の主動作筋は外旋筋群に比べて相対的に小さく、単独での触診分離は難しい。臨床では股関節内旋可動域の左右差や、歩行時の膝の内側傾き(knee-in)といった代償パターンから評価することが多い。
臨床で迷うポイント:内旋可動域の制限は、筋の短縮だけでなく股関節前方の関節包の硬さが関与していることも多い。可動域制限が筋性か関節性かを見極めるため、他動運動でのエンドフィールを確認する視点が役立つ。
臨床での活用|担当ケースから
股関節の機能は体幹や膝関節とも密接に関係しており、一つの筋の短縮や弱化が姿勢全体に影響することがあります。
私が担当した方の中にも、股関節屈筋(特に腸腰筋)の柔軟性低下によって骨盤が前傾し、腰椎の過前弯が強まることで腰痛を訴えていたケースがありました。
腸腰筋が短縮すると、立位や歩行で股関節伸展が十分に出ず、その代償として腰椎伸展が増えてしまいます。
結果として腰部の筋緊張が高まり、動作時の痛みにつながっていました。
この方には、腸腰筋のストレッチを中心に股関節伸展の可動域改善を行い、さらに殿筋群の促通を組み合わせたところ、腰痛が軽減し、歩行も安定しました。
股関節は局所の筋力だけでなく、骨盤の位置・体幹の安定性・下肢全体の協調性を評価することが重要だと感じた症例でした。
早見表(起始・停止・神経支配)
現場でサッと確認したいときのために、参考として一覧をまとめておきます(詳細な触診・臨床のポイントは上記を参照してください)。※青色は補助的に働く
腸腰筋
| 起始 | 腸骨筋-腸骨窩, 仙骨翼 大腰筋-腰椎体および 横突起 |
| 停止 | 大腿骨小転子 |
| 神経 | 腸骨筋-大腿神経L2-4 大腰筋-腰神経叢L2-3 |
| 作用 | 股関節屈曲,外旋 |

縫工筋
| 起始 | 上前腸骨棘 |
| 停止 | 脛骨上部内側面(鵞足) |
| 神経 | 大腿神経L2-3 |
| 作用 | 股関節屈曲,外転, 外旋 |

大腿直筋
| 起始 | 下前腸骨棘,寛骨臼 |
| 停止 | 膝蓋骨底,脛骨粗面 |
| 神経 | 大腿神経L2-4 |
| 作用 | 股関節屈曲,外転 |

恥骨筋
| 起始 | 恥骨上枝 |
| 停止 | 大腿骨後内側面 |
| 神経 | 大腿神経,閉鎖神経 L2-3 |
| 作用 | 股関節屈曲,内転, 外旋 |

大腿筋膜張筋
| 起始 | 上前腸骨棘 |
| 停止 | 腸脛靭帯を経て 脛骨外側顆 |
| 神経 | 上殿神経L4-5 |
| 作用 | 股関節屈曲,外転 |

大殿筋
| 起始 | 腸骨・仙骨・尾骨後面 仙結節靱帯 |
| 停止 | 腸脛靭帯, 大腿骨殿筋粗面 |
| 神経 | 下殿神経L(4),5, S1,(2) |
| 作用 | 股関節伸展,外旋, 外転 |

大腿二頭筋
| 起始 | 長頭-坐骨結節 短頭-大腿骨粗線 |
| 停止 | 腓骨頭,脛骨外側顆 |
| 神経 | 長頭-脛骨神経L5-S2 短頭-腓骨神経L5-S1 |
| 作用 | 股関節伸展,外旋 |

半腱様筋
| 起始 | 坐骨結節 |
| 停止 | 脛骨上部内側面(鵞足) |
| 神経 | 坐骨神経L(4),5, S1,(2) |
| 作用 | 股関節伸展,内旋 |

半膜様筋
| 起始 | 坐骨結節 |
| 停止 | 脛骨内側顆, 斜膝窩靱帯 |
| 神経 | 坐骨神経L4-S1 |
| 作用 | 股関節伸展,内旋 |

中殿筋
| 起始 | 腸骨後面 |
| 停止 | 大腿骨大転子 |
| 神経 | 上殿神経L4-S1 |
| 作用 | 股関節外転, 屈曲・内旋(前部繊維) 伸展・外旋(後部繊維) |

小殿筋
| 起始 | 腸骨後面 |
| 停止 | 大腿骨大転子 |
| 神経 | 上殿神経L4-S1 |
| 作用 | 股関節内旋,屈曲, 伸展,外転,外旋 |

薄筋
| 起始 | 恥骨体,恥骨下枝 |
| 停止 | 脛骨上部内側面(鵞足) |
| 神経 | 閉鎖神経L2-4 |
| 作用 | 股関節内転,屈曲, 伸展 |

長内転筋
| 起始 | 恥骨体 |
| 停止 | 大腿骨後面(粗線) |
| 神経 | 閉鎖神経L2-4 |
| 作用 | 股関節内転,屈曲, 外旋 |

短内転筋
| 起始 | 恥骨体,恥骨下枝 |
| 停止 | 大腿骨後面(粗線)上部 |
| 神経 | 閉鎖神経L2-4 |
| 作用 | 股関節内転,屈曲, 外旋 |

大内転筋
| 起始 | 深層-恥骨下枝,坐骨枝 表層-坐骨結節 |
| 停止 | 深層-大腿骨後面 (粗線) 表層-内転筋結節 |
| 神経 | 深層-閉鎖神経L3-4 表層-坐骨神経L3-4 |
| 作用 | 股関節内転,伸展 |

深層外旋6筋
| 起始 | 外閉鎖筋-(恥骨,坐骨), 閉鎖膜外側 内閉鎖筋-(恥骨,坐骨), 閉鎖膜内面 上双子筋-坐骨棘 下双子筋-坐骨結節 大腿方形筋-坐骨結節 梨状筋-腸骨,第2-4 仙骨前面 |
| 停止 | 外閉鎖筋-大腿骨 転子窩 内閉鎖筋-大腿骨 転子窩 上双子筋-内閉鎖筋腱 を介して大 腿骨転子窩 下双子筋-内閉鎖筋腱 を介して大 腿骨転子窩 大腿方形筋-大腿骨 転子間稜 梨状筋-大腿骨大転子 |
| 神経 | 外閉鎖筋-閉鎖神経 L3-4 内閉鎖筋-仙骨神経叢 L4-S2 上双子筋-仙骨神経叢 L4-S2 下双子筋-仙骨神経叢 L4-S2 大腿方形筋-仙骨神経 叢L4-S1 梨状筋-仙骨神経叢 L(4,5),S1 |
| 作用 | 股関節外旋 |

まとめ
股関節は臼状関節であり、可動性と安定性を高いレベルで両立させる構造を持っています。
強靭な関節包や腸骨大腿靱帯をはじめとした靱帯群、そして殿筋群・腸腰筋・内転筋群・深層外旋筋群など多くの筋が協調して働くことで、体重支持と動作制御を可能にしています。
この協調性が崩れると、骨盤の前傾・後傾、膝のアライメント変化、腰椎の過前弯などさまざまな代償パターンが生じ、腰痛や膝痛の原因となることも少なくありません。
筋の走行・作用・支配神経を理解しておくことは、こうした代償パターンを見抜き、適切な介入ポイントを判断するための重要な基盤になります。
この記事が、股関節の評価や治療方針を考える際の“機能解剖に立ち返るための確認ツール”として役立てば嬉しいです。
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状に不安がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。
参考文献
・中村隆一・齋藤宏・長崎浩 (2009) 『基礎運動学 第6版』 医歯薬出版株式会社
・青木隆明監修・林典雄 (2010) 『運動療法のための機能解剖学的触診技術-下肢・体幹 第1版』株式会社メジカルビュー社



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