反回抑制とは?相反抑制との違いとレンショウ細胞の働き

解剖・生理・運動学

相反抑制(Ia抑制)、自己抑制(Ib抑制)、ガンマループ。

脊髄反射による筋緊張の調節を学ぶと、これらと並んで必ず出てくるのが「反回抑制」です。

名前が「相反抑制」に似ているため混同されやすく、学生さんからも「結局、何が違うの?」とよく聞かれます。

この記事では、反回抑制の仕組みとレンショウ細胞の働きを整理したうえで、他の抑制との違いを比較表にまとめます。

あわせて、臨床でどこまで使える知識なのか、研究でわかっていることと不確かなことも分けて解説します。

反回抑制とは?

反回抑制(recurrent inhibition)とは、運動ニューロンが興奮すると、その興奮が脊髄内で「戻ってきて」、その運動ニューロン自身を抑制する仕組みです。

レンショウ細胞(Renshaw cell)という抑制性の介在ニューロンが関わるため、「レンショウ細胞による抑制」と呼ばれることもあります。

名前の混同を避けるための覚え方は、次のとおりです。

  • 相反抑制:「相手(拮抗筋)」を抑える
  • 反回抑制:「自分に戻ってくる」ので、自分(と周囲の運動ニューロン)を抑える

反回抑制の仕組み(レンショウ細胞)

反回抑制の回路は、次のように働きます。

  1. 運動ニューロン(α運動ニューロン)が興奮し、軸索を通じて筋に信号を送る
  2. 脊髄内で、その軸索から**側枝(反回側枝)**が分かれ、レンショウ細胞を興奮させる
  3. 興奮したレンショウ細胞が、抑制性の伝達物質を放出し、もとの運動ニューロンを抑制する

つまり、運動ニューロンが強く発火するほど、レンショウ細胞を介した抑制も強くなり、発火に歯止めがかかります。

いわば負のフィードバックの回路です。

レンショウ細胞が抑制するのは、運動ニューロン自身だけではありません。

  • 協同筋の運動ニューロン:ヒトでも、腓腹筋からヒラメ筋の運動ニューロンへの反回抑制が確認されています(Rossiら, 1994)
  • Ia抑制性介在ニューロン(相反抑制の中継ニューロン)や、他のレンショウ細胞:動物の研究で示されています(Ryall, 1970)。ただし、手関節のレベルでは、結合のしかたが他の部位と異なることも報告されています

ヒトでも反回抑制が存在することは、H反射という電気生理学的な方法を使って、Bussel & Pierrot-Deseilligny(1977)が示しました。

相反抑制・自己抑制・ガンマループとの違い

脊髄での筋緊張の調節に関わる4つの仕組みを、比較表にまとめます。

相反抑制(Ia抑制)自己抑制(Ib抑制)反回抑制ガンマループ
きっかけ筋紡錘(筋の伸張)ゴルジ腱器官(筋の張力)運動ニューロン自身の発火γ運動ニューロンの活動
中継する細胞Ia抑制性介在ニューロンIb抑制性介在ニューロンレンショウ細胞― (筋紡錘の感度を調整)
抑制される対象拮抗筋の運動ニューロン張力を出している筋自身自分自身と協同筋の運動ニューロン、Ia抑制性介在ニューロンなど― (伸張反射の起こりやすさを調整)
働きの性質抑制抑制抑制(負のフィードバック)感度の調整(促通)
臨床での関わり拮抗筋の収縮を使った介入持続伸張での介入直接の手技は確立していない痙縮のメカニズムの理解

詳しい仕組みと臨床での使い方は、それぞれの記事で解説しています。

反回抑制の役割:研究でわかっていること

反回抑制が何のためにあるのかについては、完全には決着していませんが、次のような考え方や知見があります。

  • 運動ニューロンの出力を調節する(ゲイン調節):運動ニューロンの発火が強くなりすぎるのを抑え、出力を調整する、という考え方が提唱されています(Hultbornら, 1979)
  • 随意運動の中で調節される:ヒトの研究では、随意収縮の強さや種類によって、反回抑制の強さが変わることが報告されています(Hultborn & Pierrot-Deseilligny, 1979)。たとえば、足関節の拮抗筋を同時に収縮させる(共収縮)と、ヒラメ筋に結合するレンショウ細胞が促通されることが示されています(Katz & Pierrot-Deseilligny, 1984;Nielsen & Pierrot-Deseilligny, 1996)
  • 筋の振動(振戦)を抑える可能性:実験で、レンショウ細胞による反回抑制が、生理的な振戦(10Hz付近)を抑えることが示唆されています(Williams & Baker, 2009)

つまり反回抑制は、脳からの指令や動作の種類に応じて強さが変わる、調節可能な回路だと考えられています。

痙縮との関係

痙縮のメカニズムを考えるとき、「反回抑制が弱くなって、運動ニューロンが過剰に働くのでは」という推測が出てきます。

ところが、ヒトの研究をまとめた総説(Katz & Pierrot-Deseilligny, 1999)では、安静時の反回抑制の低下が確認されているのは、進行性の対麻痺の患者に限られると述べられています。

つまり、痙縮のすべてを「反回抑制の低下」で説明することはできません。

痙縮には、ガンマループ(筋紡錘の感度の高まり)、Ia線維へのシナプス前抑制の低下、筋の粘弾性の変化など、複数の要因が関わると考えられています。

脳卒中後の片麻痺のリハビリでも、痙縮に対しては、複数の方法を組み合わせて考えます。

臨床での位置づけ

ここまで見てきたように、反回抑制は、相反抑制や自己抑制と違って、「この手技で反回抑制を引き出す」という介入が確立しているわけではありません。

それでも、知っておく意味は次のとおりです。

  • 神経生理学の理解を整理できる:運動ニューロンの出力が、複数の抑制回路で調節されていることを説明できます
  • 学生や患者さんへの説明に使える:「筋は、動かせば動かすほど、自分でブレーキもかけている」という説明の土台になります
  • 「わかっていること」と「不確かなこと」を区別できる:反回抑制の研究は、電気生理学的な方法で行われており、そこで得られた結果が、臨床の手技の効果に直接つながるとは限りません

学習の優先順位としては、まず相反抑制・自己抑制・ガンマループを押さえ、そのうえで反回抑制を「脊髄の調節回路の1つ」として位置づけると、全体像がつかみやすくなります。

まとめ

  • 反回抑制は、運動ニューロンの発火が、レンショウ細胞を介して自分自身と協同筋などを抑制する、負のフィードバックの回路である
  • 相反抑制は「拮抗筋」、自己抑制は「張力を出している筋自身」、反回抑制は「運動ニューロンの出力そのもの」を調節する
  • 反回抑制は、随意運動の種類に応じて強さが変わる、調節可能な回路だと考えられている
  • 痙縮では、安静時の反回抑制の低下は、進行性の対麻痺の患者に限って確認されており、痙縮のすべてを説明するものではない
  • 直接の介入手技は確立していないが、神経生理学の理解の整理や、説明の土台として役立つ

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状に不安がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

・Renshaw B. Influence of discharge of motoneurons upon excitation of neighboring motoneurons. J Neurophysiol. 1941;4:167-183.
・Eccles JC, Fatt P, Koketsu K. Cholinergic and inhibitory synapses in a pathway from motor-axon collaterals to motoneurones. J Physiol. 1954;126:524-562.
・Ryall RW. Renshaw cell mediated inhibition of Renshaw cells: patterns of excitation and inhibition from impulses in motor axon collaterals. J Neurophysiol. 1970;33(2):257-270.
・Bussel B, Pierrot-Deseilligny E. Inhibition of human motoneurones, probably of Renshaw origin, elicited by an orthodromic motor discharge. J Physiol. 1977;269(2):319-339.
・Hultborn H, Lindström S, Wigström H. On the function of recurrent inhibition in the spinal cord. Exp Brain Res. 1979;37(2):399-403.
・Hultborn H, Pierrot-Deseilligny E. Changes in recurrent inhibition during voluntary soleus contractions in man studied by an H-reflex technique. J Physiol. 1979;297:229-251.
・Katz R, Pierrot-Deseilligny E. Facilitation of soleus-coupled Renshaw cells during voluntary contraction of pretibial flexor muscles in man. J Physiol. 1984;355:587-603.
・Rossi A, Zalaffi A, Decchi B. Heteronymous recurrent inhibition from gastrocnemius muscle to soleus motoneurones in humans. Neurosci Lett. 1994;169(1-2):141-144.
・Nielsen J, Pierrot-Deseilligny E. Evidence of facilitation of soleus-coupled Renshaw cells during voluntary co-contraction of antagonistic ankle muscles in man. J Physiol. 1996 (PMID: 8782120).
・Katz R, Pierrot-Deseilligny E. Recurrent inhibition in humans. Prog Neurobiol. 1999;57(3):325-355.
・Williams ER, Baker SN. Renshaw cell recurrent inhibition improves physiological tremor by reducing corticomuscular coupling at 10 Hz. J Neurosci. 2009;29(20):6616-6624.
・石澤光郎・富永淳 (2007)『標準理学療法学・作業療法学 生理学 第3版』医学書院.

理学パパ

パパ歴(8年目)

保有資格
・理学療法士(14年目)
・登録理学療法士
・呼吸認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・福祉住環境コーディネーター2級
・ICLS

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