臨床で“肩関節の動きに関わる筋は”と思ったとき、すぐに確認できるようにまとめました。
この記事では、肩関節の動きに関与する筋を整理し、臨床での評価・治療に役立つ知識をまとめています。
特に肩関節は可動域が広く、筋の協調性が崩れやすいため、機能解剖を正確に把握しておくことが臨床では非常に重要です。
肩甲骨まわりの筋(起始・停止・神経・作用)
以下に肩関節の動きに関わる主要な筋を、起始・停止・神経・作用ごとに整理しています。
筋の一覧 ※青色は補助筋
三角筋
| 起始 | 前部-鎖骨 中部-肩峰 後部-肩甲棘 |
| 停止 | 上腕骨三角筋粗面 |
| 神経 | 腋窩神経C5-6 |
| 作用 | 前部-肩関節屈曲 水平屈曲 内旋 中部-肩関節外転 水平伸展 後部-伸展 水平伸展 外旋 |

棘上筋
| 起始 | 肩甲骨棘上窩 |
| 停止 | 上腕骨大結節 |
| 神経 | 肩甲上神経C5 |
| 作用 | 肩関節外転 |

大胸筋
| 起始 | 鎖骨部-鎖骨 胸肋部-胸骨, 第1-6 肋軟骨 腹 部-腹直筋鞘 |
| 停止 | 上腕骨大結節稜 |
| 神経 | 内側・外側胸筋神経 C5-T1 |
| 作用 | 鎖骨部-肩関節屈曲 水平屈曲 内転,内旋 胸肋部-肩関節内転 水平屈曲 内旋 腹 部-肩関節内転 伸展,内旋 |

烏口腕筋
| 起始 | 肩甲骨烏口突起 |
| 停止 | 上腕骨内側面 |
| 神経 | 筋皮神経C6-7 |
| 作用 | 肩関節水平屈曲, 屈曲,内転 |

肩甲下筋
| 起始 | 肩甲下窩 |
| 停止 | 上腕骨小結節 |
| 神経 | 肩甲下神経C5-7 |
| 作用 | 肩関節内旋, 水平屈曲,内転 |

広背筋
| 起始 | 下部胸椎・腰椎・ 仙椎棘突起, 腸骨稜,下部肋骨, 肩甲骨下角, 胸腰筋膜 |
| 停止 | 上腕骨小結節稜 |
| 神経 | 胸背神経C6-8 |
| 作用 | 肩関節伸展,内転, 内旋,水平伸展 |

大円筋
| 起始 | 肩甲骨下角 |
| 停止 | 上腕骨小結節稜 |
| 神経 | 肩甲下神経C5-7 |
| 作用 | 肩関節伸展,内転, 内旋,水平伸展 |

棘下筋
| 起始 | 肩甲骨棘下窩 |
| 停止 | 上腕骨大結節 |
| 神経 | 肩甲上神経C5-6 |
| 作用 | 肩関節外旋、 水平伸展 |

小円筋
| 起始 | 肩甲骨外側縁 |
| 停止 | 上腕骨大結節 |
| 神経 | 腋窩神経C5 |
| 作用 | 肩関節外旋, 水平伸展 |

上腕二頭筋
| 起始 | 長頭-肩甲骨 関節上結節 短頭-肩甲骨烏口突起 |
| 停止 | 橈骨粗面,前腕筋膜 尺骨(上腕二頭筋腱膜 を経て) |
| 神経 | 筋皮神経C5-6 |
| 作用 | 長頭-肩関節外転 短頭-肩関節屈曲, 内転 |

上腕三頭筋
| 起始 | 長 頭-肩甲骨関節 下結節 外側頭-上腕骨後面 内側頭-上腕骨後面 橈骨神経溝 より下方 |
| 停止 | 肘頭 |
| 神経 | 橈骨神経C6-8 |
| 作用 | 長頭-肩関節伸展, 内転 |

運動方向別に働く筋 ※青色は補助筋
肩関節の屈曲に関与する筋
- 三角筋(前部)
- 大胸筋(鎖骨部)
- 烏口腕筋
- 上腕二頭筋(短頭)
肩関節の伸展に関与する筋
- 三角筋(後部)
- 広背筋
- 大円筋
- 上腕三頭筋(長頭)
肩関節の外転に関与する筋
- 三角筋(中部)
- 棘上筋
- 上腕二頭筋(長頭)
肩関節の内転に関与する筋
- 大胸筋(胸肋部)
- 大胸筋(腹部)
- 広背筋
- 大円筋
- 大胸筋(鎖骨部)
- 烏口腕筋
- 肩甲下筋
- 上腕二頭筋(短頭)
- 上腕三頭筋(長頭)
肩関節の外旋に関与する筋
- 棘下筋
- 小円筋
- 三角筋(後部)
肩関節の内旋に関与する筋
- 肩甲下筋
- 大円筋
- 三角筋(前部)
- 大胸筋(鎖骨部)
- 大胸筋(胸肋部)
- 大胸筋(腹部)
- 広背筋
肩関節の水平屈曲に関与する筋
- 三角筋(前部)
- 大胸筋(鎖骨部)
- 大胸筋(胸肋部)
- 大胸筋(腹部)
- 烏口腕筋
- 肩甲下筋
肩関節の水平伸展に関与する筋
- 三角筋(中部)
- 三角筋(後部)
- 棘下筋
- 小円筋
- 広背筋
- 大円筋
臨床での活用
ここからは、実際の臨床で筋の働きの違いがどのように症状に影響するか、私の経験をもとに紹介します。
臨床では、棘上筋がうまく働かずに三角筋が早期・過剰に活動してしまい、 肩の挙上がスムーズにいかないケースにしばしば出会います。
私が担当した方の中にも、まさにこのパターンの方がいました。
挙上初期から三角筋が強く働いてしまい、上腕骨頭がわずかに上方へ偏位し、 結果として肩峰下でのスペースが狭くなり痛みが出ていたケースです。
このような場合、いきなり強い抵抗をかけてトレーニングすると 三角筋ばかりが働いてしまうため、私は一度「強度を落とす」方向で介入しました。
具体的には、棘上筋の収縮を促しやすい軽い負荷に調整し、 関節の適合性が高まった状態でゆっくり挙上してもらうと、 痛みが大きく軽減し、動きもスムーズになりました。
棘上筋が適切に働くことで、上腕骨頭の求心性が保たれ、 三角筋の力が正しく挙上方向に使われるようになった結果だと考えています。
同じように挙上初期で痛みが出る方は、 まず棘上筋の働きを引き出すために負荷を調整し、 求心性を保った状態での挙上を試してみると改善のヒントになるかもしれません。
まとめ
肩関節は可動域が広い反面、関節包内運動のわずかな乱れや ローテーターカフの協調性低下によって、容易に代償運動が生じる関節です。
特に挙上初期では、棘上筋を中心とした求心性の確保が不十分になると、 三角筋の牽引力が上腕骨頭を上方へ偏位させ、肩峰下インピンジメントを誘発しやすくなります。
そのため、単に筋力を評価するだけでなく、
「どの局面で求心性が失われているか」
「どの筋が主動作筋として働けていないか」
「代償としてどの筋が過活動になっているか」
といった視点で動作を分析することが、治療戦略を立てるうえで重要になります。
筋の走行・作用・支配神経を理解しておくことは、 こうした臨床推論の精度を高め、適切な介入ポイントを見極めるための基盤になります。
この記事が、肩関節の評価や治療方針を考える際の “機能解剖に立ち返るための確認ツール”として役立てば幸いです。
参考文献
中村隆一・齋藤宏・長崎浩 (2009) 『基礎運動学 第6版』 医歯薬出版株式会社
青木隆明監修・林典雄 (2010) 『運動療法のための機能解剖学的触診技術-上肢 第1版』株式会社メジカルビュー社



コメント