腰痛 評価の全手順|臨床で迷わない実践ポイント

リハビリ評価

同じ「腰痛」という訴えでも、原因も背景もまったく違う患者さんが次々に来る。

臨床に出ると、そんな場面に何度も出会います。

腰痛は「疾患」ではなく「症状」で、画像検査だけでは痛みの原因を特定できないことが少なくありません。

だからこそ、評価の順番と、それぞれの所見をどこまで信じてよいかを知っておくことが、迷わない評価につながります。

この記事では、腰痛診療ガイドラインや原著論文をもとに、理学療法士が臨床で使える腰痛評価の流れを整理します。

各テストの精度の目安や、よくある誤解にも触れています。

腰痛評価の前提:「非特異的腰痛」が多いとはどういうことか

腰痛診療ガイドラインでは、腰痛を診断のトリアージで分類します。

  • 重篤な脊椎疾患(脊椎腫瘍、化膿性脊椎炎、脊椎骨折など)の合併が疑われる腰痛
  • 神経症状を伴う腰痛(椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など)
  • 非特異的腰痛(上記のいずれにも当てはまらない腰痛)

このうち約85%が非特異的腰痛とされています。

画像や検査で明確な異常を指摘できない腰痛、という意味です。

ここで注意したいのは、「非特異的=原因がない」「評価しても意味がない」ではないことです。

山口県の研究(Suzukiら, 2016)では、痛みの誘発所見や診断的ブロックなどを組み合わせることで、従来は非特異的とされていた腰痛の多くで、椎間関節、椎間板、仙腸関節、筋・筋膜などの痛みの源を推定できる可能性が示されています。

また、心理社会的因子が慢性化に影響することもわかっています。

つまり、腰痛の評価では、**「重篤な疾患を見逃さない」→「神経症状の有無を確認する」→「それ以外は、痛みの出方や動作から作業仮説を立てて、介入への反応で修正する」**という考え方が基本になります。

評価の全体の流れ(10ステップ)

順番を守ることで、見落としが減り、所見の意味づけもしやすくなります。

ステップ目的主な内容
① レッドフラッグの確認重篤な疾患の除外癌の既往、発熱、夜間痛、排尿・排便障害など
② 問診痛みの特徴と背景の把握部位、性質、増悪・軽減因子、経過、心理社会的因子
③ 視診・姿勢評価静的な情報の整理骨盤・腰椎のアライメント、左右差
④ 触診痛みの部位と組織の反応を確認圧痛、筋緊張、皮膚・筋膜の状態
⑤ 可動域評価痛みの方向と動きの質を確認前屈・後屈・側屈・回旋、Schober
⑥ 神経学的評価神経根症状の有無を確認感覚、筋力、反射
⑦ 整形外科テスト仮説の裏づけSLR、仙腸関節の誘発テストなど
⑧ 動作評価生活・動作での痛みの再現立ち上がり、歩行、しゃがみ込み、ADL
⑨ 所見の統合と作業仮説痛みのタイプを整理椎間板・椎間関節・神経根・仙腸関節など
⑩ 介入方針の決定評価の結果を治療につなげる運動療法、患者教育、生活指導

ステップ別の解説

① レッドフラッグの確認

最初に、「危険な腰痛ではないこと」を確認します。

腰痛の原因を探る前に、重篤な疾患を見逃さないためのステップです。

確認する所見疑う病態
癌の既往、原因不明の体重減少悪性腫瘍(転移性脊椎腫瘍など)
発熱・悪寒、免疫抑制状態(ステロイドの長期使用など)脊椎感染(化膿性脊椎炎など)
外傷歴(高齢者や骨粗鬆症では軽微な外傷でも)、高齢での初発脊椎骨折(圧迫骨折)
安静時痛・夜間痛(姿勢を変えても軽減しない痛み)腫瘍、感染
排尿・排便障害、肛門周囲の感覚障害、両下肢の進行性の筋力低下馬尾症候群(緊急)
急速に進行する神経症状重度の神経障害

注意点:レッドフラッグの単独の所見は、診断精度が高くないことが系統的レビューで示されています(Downieら, 2013)。

1つ当てはまるだけで重篤な疾患とは限りませんが、複数当てはまる場合や、馬尾症候群を疑う所見がある場合は、評価を中断して医師の診察につなげます。

② 問診

問診では、痛みの特徴と背景を整理して、作業仮説の材料を集めます。

  • 痛みの部位:指一本で「どこが一番痛いか」を示してもらうと、部位が特定しやすくなります
  • 性質:鋭い痛み、鈍痛、電気が走るような痛み、放散痛の有無
  • 増悪・軽減因子:前屈、伸展、座位、立位、歩行、起床時など、どの動作・姿勢で変わるか
  • 経過:急性(発症から4週間未満)、亜急性(4週間以上3か月未満)、慢性(3か月以上)
  • しびれ・脱力:範囲、時間帯、動作との関係
  • 生活・仕事:長時間の座位や立位、重量物の取り扱いなど
  • 心理社会的因子(イエローフラッグ):不安、恐怖回避、過度な安静、仕事上のストレスなど

心理社会的因子は、慢性化や予後に影響することが知られています。

簡易的なスクリーニングとして、STarT Back(Hillら, 2011)のような質問票を使う方法もあります。

③ 視診・姿勢評価

視診では、骨盤の傾き、腰椎のカーブ、体幹や骨盤の左右差、立位と座位の姿勢、動作前の準備姿勢を見ます。

ここで大切なのは、「姿勢が悪い=腰痛の原因」と決めつけないことです。

姿勢は痛みの原因ではなく、痛みを避けた結果として現れることもあり、姿勢と腰痛の関連は研究でも一貫していません。

視診は、どこにストレスが偏っていそうか、どの動作で痛みが出そうかを予測する材料として使い、動作評価とセットで判断します。

④ 触診

触診では、次のような点を確認します。

  • 圧痛:腰方形筋、多裂筋、殿筋、棘突起の外側(椎間関節周囲)、PSIS周囲(仙腸関節)
  • 筋緊張:左右差、過緊張の部位
  • 皮膚・筋膜の状態:つまみやすさ、滑走の左右差

触診所見は検者間で一致しにくく、圧痛があること自体が原因の証明にはなりません。

本人が訴える「いつもの痛み」が再現されるかを重視し、他の所見と合わせて判断します。

⑤ 可動域評価

前屈、後屈、側屈、回旋を確認します。

見るのは角度だけでなく、どの方向で痛みが出るか、動きの質はどうかです。

  • 前屈:骨盤の前傾が十分に出ているか、ハムストリングスの硬さのために腰椎だけで曲がっていないか
  • 後屈・側屈・回旋:痛みの出る方向と左右差
  • 腰椎の回旋は小さく、胸椎・骨盤・股関節の動きが大きく関わる

胸腰部の参考可動域(日本リハビリテーション医学会・日本整形外科学会)は、屈曲45°、伸展30°、回旋左右各40°、側屈左右各50°です。

測定の基本軸・移動軸は関節可動域の記事にまとめています。

Schober(ショーバー)テスト

腰椎の前屈の動きを、皮膚の伸びで評価する簡易法です。

現在は修正Schober法がよく使われます。

  1. 立位で、両側の後上腸骨棘(PSIS)を結ぶ線の中点(腰仙移行部)に印をつける
  2. その10cm上と、5cm下にも印をつける(基線の距離は15cm)
  3. 膝を伸ばしたまま最大前屈してもらい、2つの印の距離を測る
  4. 距離が5cm以上増える(20cm以上になる)のが目安で、増加が5cm未満なら腰椎の前屈制限を疑う

原法(Schober, 1937)は、腰仙移行部とその10cm上に印をつけ、前屈で15cm以上になるかを見る方法です。

強直性脊椎炎などの炎症性脊椎疾患のスクリーニングにも使われます。

ただし、股関節や胸椎の動きは反映しないため、あくまで腰椎の動きの目安です。

⑥ 神経学的評価

しびれや放散痛がある場合はもちろん、痛みだけの場合でも、神経根症状が隠れていないか確認します。

神経根感覚障害の範囲筋力反射
L4大腿前面〜下腿内側膝伸展(大腿四頭筋)、足関節背屈膝蓋腱反射
L5下腿外側〜足背母趾背屈(長母趾伸筋)、足関節背屈(踵歩き)明確な反射はない
S1足底・足外側・下腿後面足関節底屈(つま先立ち、つま先歩き)アキレス腱反射

感覚・筋力・反射の複数の所見が同じ神経根レベルで一致するか、左右差があるかを確認します。

痛みで力が入らないのか、神経根障害による筋力低下なのかを見分けることも大切です。

⑦ 整形外科テスト

テストは、仮説を裏づけるための補助です。

単独のテストで診断を確定せず、感度・特異度の目安を知ったうえで、複数の所見と合わせて判断します。

テスト方法陽性所見精度・使い方の注意
SLR(下肢伸展挙上)背臥位で膝を伸ばしたまま下肢を挙上30〜70°で下肢への放散痛椎間板ヘルニアに対し、感度が高く(約0.91)特異度は低い(約0.26)。陰性なら除外に有用だが、陽性だけでは確定できない(Devilléら, 2000)
Crossed SLR健側の下肢を挙上患側の下肢に痛み特異度が高く(約0.88)感度は低い(約0.29)。陽性ならヘルニアの可能性が高い
大腿神経伸張テスト(FNS)腹臥位で膝を屈曲し、股関節を伸展大腿前面の痛みL2〜L4の神経根症状の確認
Kemp(ケンプ)テスト立位で伸展+側屈+回旋腰部の局所痛椎間関節痛の診断精度は低いとされる(Stuberら, 2014)。痛みの再現を見る誘発テストとして使い、単独で判断しない
Prone Instability Test腹臥位で下肢をベッド端から下ろして腰部を圧迫し、次に下肢を挙上して再度圧迫下肢を挙上すると痛みが軽減腰椎の不安定性の指標。安定化運動が有効な患者を予測する臨床予測ルールの一項目(Hicksら, 2005)

仙腸関節の誘発テスト

仙腸関節の痛みは、1つのテストでは判断せず、複数のテストを組み合わせます。

Laslettら(2005)は、次の誘発テストについて、仙腸関節ブロックを基準にして検討しました。

  • Distraction(背臥位で両側の上前腸骨棘を外側後方へ押す)
  • Thigh thrust(背臥位で股関節を90°屈曲し、大腿の長軸方向に押す)
  • Compression(側臥位で腸骨を上から押す)
  • Sacral thrust(腹臥位で仙骨を前方へ押す)
  • Gaenslen(背臥位で片脚をベッド端から下ろして伸展し、反対側の股関節を屈曲)

6つのテスト(Gaenslenを左右で数える)のうち3つ以上が陽性だと、感度は約94%、特異度は約78%でした。

また、Distraction・Thigh thrust・Compression・Sacral thrustの4つのうち2つ以上が陽性でも、同様に予測に有用とされています。

ただし、対象は48人の慢性腰痛の患者で、比較的小さな研究です。

FABER(Patrick)テストはこの組み合わせには含まれず、股関節疾患の鑑別・スクリーニングにも用いられます。

⑧ 動作評価

腰痛は「動作で痛む」ことが多いため、実際の動作で痛みを確認します。

  • 立ち上がり:骨盤の使い方(股関節で曲げて立てるか、腰椎の屈曲が優位か)、体幹の傾き、左右差
  • 歩行:体幹や骨盤の左右の揺れ、歩き始めの痛み、距離による痛みの変化
  • しゃがみ込み:骨盤のコントロール、膝の向き
  • 生活動作:洗顔、靴下を履く、物を持ち上げる、長時間の座位・立位、車の乗り降り

私が動作評価で意識しているのは、問診で聞いた痛みが、実際の動作で再現されるかを確認することです。

たとえば「前かがみで痛い」という訴えがあれば、その場面を実際にやってもらい、同じ痛みが出るか、動作のどの局面で出るかを見ます。

こうして確認すると、屈曲・伸展・側屈・回旋のうちどの運動方向のストレスが痛みにつながっているかを整理しやすくなり、介入で減らすべき動作や方向が具体的になります。

歩行時の骨盤の安定性は、中殿筋の働きや正常歩行の筋活動と合わせて見ていくと整理しやすくなります。

⑨ 所見の統合と作業仮説

ここまでの情報を統合して、痛みのタイプを整理します。

ただし、以下は確定診断ではなく、介入を始めるための作業仮説の目安です。

複数が重なることも多く、手がかりの多くは研究で十分に検証されているわけではありません。

タイプ主な手がかり評価で確認すること
椎間板性(疑い)前屈や長時間の座位で悪化前屈・座位での痛みの再現
椎間関節性(疑い)伸展・回旋で悪化、局所の痛み伸展での再現、棘突起外側の圧痛
神経根性下肢への放散痛、しびれ、神経学的所見SLR、感覚・筋力・反射
仙腸関節性(疑い)殿部の痛み、片側、立ち上がりや歩き始めで悪化誘発テストの組み合わせ、PSIS周囲の圧痛
筋・筋膜性(疑い)圧痛がはっきり、動作の初動で痛む触診、動作での再現
動作・姿勢由来特定の動作・姿勢で再現、代償動作動作評価
心理社会的因子不安、恐怖回避、過度な安静問診、質問票

⑩ 介入方針の決定

腰痛診療ガイドラインでは、運動療法、患者教育、認知行動的なアプローチが治療の中心に位置づけられています。

評価で立てた作業仮説に沿って、介入の方向性を決めます。

作業仮説介入の方向性の例
椎間板性(疑い)屈曲ストレスを増やす動作・姿勢の調整、体幹と股関節の協調性の改善
椎間関節性(疑い)伸展ストレスを増やす動作・姿勢の調整、体幹筋の協調性の改善
神経根性症状を悪化させない範囲での活動維持、神経の滑走を促す運動(症状に応じて)
仙腸関節性(疑い)殿筋群と体幹の協調性、骨盤の安定性、歩き始めの動作の修正
筋・筋膜性(疑い)動作の初動の改善、柔軟性と筋力のバランスの調整
心理社会的因子痛みについての説明、過度な安静を避けて段階的に活動を増やす

大切なのは、介入の後に必ず再評価することです。

作業仮説は、介入への反応を見て修正していきます。反応が乏しい場合や、新しい症状が出た場合は、レッドフラッグや神経症状を改めて確認します。

臨床で迷わないための3つのポイント

① 先に「除外」する レッドフラッグ、神経症状の順に確認します。ここを飛ばして動作や筋の評価から入ると、重要な所見を見落とすことがあります。

② 本人の「いつもの痛み」を再現する 触診、可動域、テスト、動作のどれも、「いつもの痛みが再現されるか」が大切です。問診で聞いた痛みを実際の動作で再現できると、どの運動方向のストレスが痛みにつながっているかを確認でき、再現された動作や肢位は、そのまま介入のヒントになります。

③ 仮説を立てて、反応を見て更新する 腰痛の多くは非特異的で、1つのタイプに分類しきれません。作業仮説を立て、介入への反応を見ながら更新していくことが、実際の臨床では現実的です。

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まとめ

腰痛評価は、次の流れで進めます。

  1. レッドフラッグを確認して、重篤な疾患を除外する
  2. 問診で、痛みの特徴と心理社会的因子を整理する
  3. 視診・触診・可動域・神経学的評価・整形外科テスト・動作評価で、所見を集める
  4. 所見を統合して作業仮説を立て、介入し、反応を見て更新する

各テストには精度の限界があり、単独で診断を確定することはできません。

それでも、評価の順番を守り、所見の意味と限界を理解して使うことで、腰痛への介入はより根拠のあるものになります。

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状に不安がある場合は、必ず医療機関にご相談ください。

参考文献

・日本整形外科学会・日本腰痛学会 監修.腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版).南江堂;2019.
・Suzuki H, Kanchiku T, Imajo Y, et al. Diagnosis and characters of non-specific low back pain in Japan: The Yamaguchi low back pain study. PLoS One. 2016;11(8):e0160454.
・Downie A, Williams CM, Henschke N, et al. Red flags to screen for malignancy and fracture in patients with low back pain: systematic review. BMJ. 2013;347:f7095.
・Hill JC, Whitehurst DG, Lewis M, et al. Comparison of stratified primary care management for low back pain with current best practice (STarT Back): a randomised controlled trial. Lancet. 2011;378(9802):1560-1571.
・Macrae IF, Wright V. Measurement of back movement. Ann Rheum Dis. 1969;28(6):584-589.
・Devillé WL, van der Windt DA, Dzaferagić A, Bezemer PD, Bouter LM. The test of Lasègue: systematic review of the accuracy in diagnosing herniated discs. Spine. 2000;25(9):1140-1147.
・Stuber K, Lerede C, Kristmanson K, Sajko S, Bruno P. The diagnostic accuracy of the Kemp’s test: a systematic review. J Can Chiropr Assoc. 2014;58(3):258-267.
・Hicks GE, Fritz JM, Delitto A, McGill SM. Preliminary development of a clinical prediction rule for determining which patients with low back pain will respond to a stabilization exercise program. Arch Phys Med Rehabil. 2005;86(9):1753-1762.
・Laslett M, Aprill CN, McDonald B, Young SB. Diagnosis of sacroiliac joint pain: validity of individual provocation tests and composites of tests. Man Ther. 2005;10(3):207-218.
・日本リハビリテーション医学会・日本整形外科学会・日本足の外科学会.関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月改訂).

理学パパ

パパ歴(8年目)

保有資格
・理学療法士(14年目)
・登録理学療法士
・呼吸認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・福祉住環境コーディネーター2級
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