自己抑制(Ⅰb抑制)は、ストレッチやリハビリテーションの基礎となる生理学的な仕組みです。
筋肉にかかる張力を調整し、過度な収縮を防ぐ役割を持つため、柔軟性の向上や筋緊張の調整に関わるとされています。
この記事では、Ⅰb抑制のメカニズムと、ストレッチ・リハビリでの応用についてわかりやすく解説します。
自己抑制(Ⅰb抑制)とは?
自己抑制とは、筋肉に張力が加わったとき、その筋肉自身の収縮が抑えられる反射のことです。
筋腱移行部にある「ゴルジ腱器官」が張力を感知し、Ⅰb線維(張力を伝える求心性線維)を通じて脊髄へ情報を送ることで起こります。
Ⅰb線維が関わるため「Ⅰb抑制」と呼ばれます。
基本のメカニズム
筋肉が伸張・収縮すると、ゴルジ腱器官が張力を感知します。
具体的には、
筋収縮・伸張→ゴルジ腱器官興奮→Ⅰb神経線維が脊髄へ情報を伝達→抑制性ニューロンを介してα運動神経を抑制→同筋が弛緩
という流れで反射が起こります。
図を参考にするとイメージしやすいです。
①腱が伸張、ゴルジ腱器官が興奮
②GⅠb線維が中枢へ興奮を伝える
③脊髄内で抑制ニューロンを介し同筋のα運動神経を抑制、同時に拮抗筋のα運動神経が興奮
④同筋は弛緩、拮抗筋が収縮

ゴルジ腱器官の役割
ゴルジ腱器官は、筋肉と腱の境目にある「張力センサー」です。
筋肉に持続的な張力が加わると、筋を守るためにⅠb抑制が働き、過度な収縮を防ぐとされています。
Ⅰa抑制(相反抑制)との違い
よく混同されるのが「Ⅰa抑制(相反抑制)」です。こちらは筋紡錘が(素早い)伸張を感知して、拮抗筋を緩める仕組みです。対してⅠb抑制は刺激を受けた筋肉自身の収縮を抑える点が大きな違いです。
- Ⅰa抑制:拮抗筋を緩める
- Ⅰb抑制:同筋を緩める
ストレッチやリハビリでの応用
Ⅰb抑制は、ストレッチやリハビリの場面で活用されることがあります。
スタティックストレッチ(静的ストレッチ)
反動をつけず、ゆっくりと筋を伸ばして20〜30秒保持する方法です。
持続的な張力がゴルジ腱器官を刺激し、Ⅰb抑制が働くことで筋緊張が低下する可能性があります。
ポイントは
- 急がずゆっくり伸ばす
- 痛みのない範囲で行う
ことです。
PNFストレッチ(ホールドリラックス)
対象筋を数秒間収縮させた後に弛緩させ、そこから静的ストレッチを行う方法です。
Ⅰb抑制を利用して筋を伸ばしやすくする手技として知られています。
臨床での応用と注意点
脳卒中リハビリ
痙縮がみられる筋に対して、拮抗筋の収縮や持続的なストレッチを取り入れることで、
筋緊張の調整に役立つ可能性があります。
スポーツリハビリ
柔軟性向上や筋バランスの調整に活用されることがあります。
ただし、ウォーミングアップで静的ストレッチを長時間行うとパフォーマンスが低下する可能性があるため、状況に応じた使い分けが必要です。
日常生活のセルフケア
肩こりや腰の張りなど、軽い不快感に対してストレッチを取り入れる人もいますが、無理のない範囲で行うことが大切です。
まとめ
自己抑制(Ⅰb抑制)は、ゴルジ腱器官が筋肉の張力を感知し、過度な収縮を防ぐ反射です。
- 筋肉を守る安全装置として働く
- ストレッチやリハビリで柔軟性や筋緊張の調整に活用されることがある
- スポーツ動作のコントロールにも関与する
この仕組みを理解しておくことで、ストレッチや運動療法の背景がより明確になり、安全で効果的なアプローチにつながります。
参考文献
石澤光郎・富永淳 (2007) 『標準理学療法学・作業療法学 生理学 第3版』株式会社医学書院
隈元庸夫 (2023) 「他動的ストレッチングにおける技術を科学する」 『理学療法』 40(9),815-824.




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